神戸地方裁判所姫路支部 平成8年(わ)100号 判決 1996年10月11日
主文
被告人を懲役三月に処する。
この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで、平成七年一〇月一一日午後一〇時五八分ころ、兵庫県姫路市太市中九〇九番地の一先付近道路において、普通乗用自動車を運転したものである。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
被告人の判示行為は、道路交通法一一八条一項一号、六四条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で犯情を考慮すると、本件は、三〇年以上前に運転免許取消処分を受け、その後昭和五二年に無免許運転罪を含む事犯により罰金刑に処せられ、昭和五六年には、無免許、業務上過失傷害、報告義務違反の事犯により懲役四月に処せられ、さらに平成四年一二月二八日、神戸地方裁判所竜野支部において、自動車窃盗、無免許、信号無視の事犯により懲役一年二月・四年間刑執行猶予に処せられた被告人が、親戚の者の運転で海釣りに行く約束をし、餌を買うなどして準備していたところ、当日急に都合が悪くなったとの連絡が入り、長男にも代わりの運転を断られたため、自宅にあった長男の車両を運転して釣りに行きその帰途に交通検問により発覚した、という事案である。
前記のように度重なる注意を受け、かつ執行猶予期間中に、単なる釣りに行くためと称して平然と運転を開始した被告人の交通法規軽視の態度は目に余るものがある。
たしかに、猶予期間を約三年経過した時点での違反であり、被告人が反省していることなどの被告人のための酌むべき諸情状もあるが、被告人のこれまでの前科と今回の違反の動機があまりにも安易であることに照らして、再度刑の執行を猶予するのは一般的に相当とは考えられない。
しかしながら、本件は、被告人の常習的無免許運転の一端が発覚したというより前述のようにいささか偶発性のある事犯といわざるを得ないこと、被告人はこれまであまり定職に就いたことがなく生活態度が乱れ、交通違反や窃盗等の前科が少なくなかったが、最近は長男とともに同じ会社に真面目に勤務し、ようやく生活に落ち着きが認められるようになってきたこと、無免許運転に対する社会的非難の根拠は、交通ルールを乱し、事故の危険を高めるという点にあるところ、そのようなルールに違反した責任に、ある程度見合うような社会的貢献をすることによって右非難感情はいささか緩和されると考えられるところ、裁判所の指示によるものとはいえ、被告人は公判中に、住居地の新宮町からボランティア活動の紹介を受け、平成八年六月から週一回の手話通訳の夜間講習に通い、また同町主催の会合の準備、会場設営をするイベントボランティアに二回参加し、さらに八月からは、姫路市内の震災被災者仮設住宅の訪問や引っ越し、バザーの手伝い等をするボランティアグループに参加して毎週一回休日に仮設住宅を訪問しているのであり、右実績によれば、被告人に対する社会的非難はそれなりに減弱して評価するのが相当であること、被告人がボランティア活動に参加してこれまでの自分の考え方のいいかげんさや身勝手さを思い知らされたと述べていること、妻が当公判廷に出頭して今後の厳重な監督を誓約したこと等の諸事実を考慮すると、被告人に対し、再度刑の執行を猶予し社会内で更生させることも可能と考えられる。
そこで、被告人を懲役三月に処するとともに刑法二五条二項、二五条の二第一項後段により、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予するとともに、右猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により、これを全部被告人に負担させることとする。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 安原 浩)